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[コメント] リンダ リンダ リンダ(2005/日)

一瞬、互いに分かり合えたような気がする。その時、自分自身が見えたような気がする。それは10代特有の錯覚で特権なのかも知れない。口あたり良いピュアな青春物語の形を借りながら山下敦弘らしいコミュニケーション不全に溢れたちょと意地の悪い映画。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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どんでん生活』、『ばかの方舟』、『リアリズムの宿』を通じて、思いはあっても成し遂げる術を持たぬ者たちや、意志はあってもコミュニケーションできない者たちを描いてきた山下敦弘監督。直球勝負の青春映画のように見せかけて、やはり一筋縄ではいかぬ作品に仕上がっていた。

昨今はやりの『ロボコン』や『スウィングガールズ』、『恋は五・七・五!』といった類似の学園映画にあって、本作には決定的に欠けているもの。それは意志の疎通である。『リンダ、リンダ、リンダ』の登場人物たちもまた、他の作品の落ちこぼれ高校生たち同様互いにつながり合うことを望んでいる現代の若者たちなのにもかかわず。

登場人物たちのコミュニケーションは一見成立しているように見えて、実は極めて曖昧で危ういつながりでしかない。バンドの発案者である恵(香椎由宇)と凛子(三村恭代)は親友でいながら近親憎悪で反目し合う。裕作(松山ケンイチ)の思いは、ソン(ぺ・ドゥナ)を目に前にしながら言葉の壁の前にあえなく散り、響子(前田亜季)は一也(小林且弥)をすっぽかしたあげくついに心を告げられない。恋はすべて未成就のまま。

バンドの4人はと言えば、特訓の合間に望(関根史織)がもらした「こういうのが一生の思い出になるんだよね」の殊勝な一言はあえなく恵のバカ笑いに打ち消され、洗面鏡を前にしたソンの「さそってくれてありがとう」と恵の「歌ってくれてありがとう」の決め台詞にいたっては互いに言葉を解しないはずなのに韓国語と日本語でかわされる。心は言葉を越えてつながる、なんて山下監督は爪の先ほども考えていないだろう。

ハレの舞台、学園祭を前に繰り広げられる若者たちの饗宴は、彼女たちの心をつないだかのように見える。そしてまた、彼女たちもまた互いに分かりあえたという手ごたえを感じたであろう。しかし、それは一瞬の出来事ですよ。若さの勢いですよ。それが全てなどでは、決してありませんよと言わんばかりに意地悪くも山下監督は突然の豪雨の中に彼女たちをさらしてしまう。

人と人の心はそんなに簡単にはつながらないのだ。互いに分かり合えることなどほんの僅かな部分でしかないのだという山下監督の人間観がそこにはある。しかし、彼は一皮むけて優しくなった。「そんな危ういつながりでも大切なのだ。僅かな理解をたよりに生きて行くのが人間なのです」。ずぶ濡れで楽器を手にし泥だらけで熱唱するペ・ドゥナの姿に、そんなメッセージを託しているかのように見えた。

(評価:★4)

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