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[コメント] 日本のいちばん長い日(1967/日)

大いなる序章。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







閣議やら伝達などの会話のシーン、さもなければナレーションによる歴史的説明がほとんどという前半部分の、いくつもの場面の順番、長さ、その手綱さばきが見事で、そのテンポのよさで飽きない、というかとても面白い。タイトルが出てくるまでに20分もかかるのだが、10分すらたっているように感じない。

ふつうの演出プランなら、こんな「説明」シーン面白く撮れなくても当然、早々に「見せ場」の陸軍の暴動シーンに話を運ぶべきところだろう。ところが「われわれには時間がない」という状況が、画面の裏でビートを刻んでいるかのように「ノリ」がある。玉音放送の草稿の文言でもめたり、文書係が清書する際に書き落としがあったり、なんていう「いらいら」を醸成させるシーンも、長すぎずあっさりせずとてもバランスがいい。オールスターが次々と登場してくることも、それ自体がひとつのリズム感を画面に与えている。で、実はヘビーな情報量を、観客は知らずに受けているので、閣僚たちが仕事を終え、休憩室で脱力状態になっている時の、「長かった、長い一日だった」というナレーションで、「本当だよな」と、観ているこっちも同調するのである。うまいよなあ。で、しかもそこからの後半の暴動シーンも面白いので、2時間30分、まるで何かの「序章」のような引き込まれ方のまま最後まで観てしまうのである。

「敗戦を受け入れますか?」のような、誰がどう答えるか興味深い、短くてただひとつの質問。オールスターキャストがそこにずらずらっと並んでいることが活きてくる。いろいろな時間帯や場所などに名場面が分かれている大作とは違って、設定が限定されているということが、オールスターキャストをパノラミックに観られ、ほんの短い時間の登場ですら無駄な感じがしないというのも面白い。

裏でビートをとっているような感じ、っていうことでついでに言えば、この映画、場面の内容に対しそれと相反する感情が、場面の裏に隠れているような印象があった。児玉基地から特攻隊が出撃する時の、表面上での「明るさ」と、その裏側にある「激しい怒り」。近衛師団長襲撃を象徴とする、陸軍士官たちの「激情」の裏には「滑稽」。監督のシニカルな視点が見て取れる。だからこそ「狂乱」を表現できたのだろう。

「長い1日」とは、密度の濃い1日のことで、それは同時に、時間があっという間に過ぎていく1日だったということだ。橋本忍の密度の濃い脚本、岡本喜八の軽快な演出テンポ。この映画が「長い1日」それ自体を体現してしまっている。うまいよなあ(2回目)。

「序章」のような引き込まれ方と書いてみたが、これ、現在に生きるわれわれのさまざまな物語の確かに序章でもある。

(評価:★5)

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