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[コメント] 天然コケッコー(2007/日)

五感で感じる「予感」の物語
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「いつまでも今のままであり続けたい」と願いつつ、「いつまでも今のままではいられない」ことを薄々“予感”している。思春期特有の“漠然とした不安感”は、こうした予感が原因なのかもしれない。 この映画は、こうした「予感」を意識する思春期の少女を描いた物語だ。

修学旅行で行った東京も、「山と同じ」ことに気付けば「いつか仲良くなれるかもしれない」と感じる。 いつか自分の学校が廃校になることも漠然と分かっている。 父親の浮気のことも薄々気付いている。 そして、いつか彼と別れる日が来るかもしれないことも。

しかし、若い彼女の前にはまだ劇的な変化は訪れない。 せいぜい、1年歳をとり、違和感のある制服と不似合いの坊主頭になったくらいだ。 だが、それもいずれ慣れてしまうのだろう。

“慣れる”ことは“忘れる”ことと大変近しい。分かりやすい例を挙げれば、都会に慣れることは田舎を忘れることに近いことと類似している。 しかし、右田そよは、おそらく忘れない性質(たち)なのだろう。 目で耳で指先で、五感で“今”を記憶しようとする (その究極が、彼にはぎこちなかったキスが、教室に対して初めて愛情込めたキスができるシーンに集約される)。 きっと彼女は、慣れることがなかなかできない“不器用な”性格であるに違いない(実際、器用な性質ではない描写が多々出てくる)。

私はこの映画を観ながら、右田そよと一緒に「今この瞬間がこのまま続けばいい」と思っていた。例えば海のシーン。あのまったりしたゆるやかな時間なんかサイコーに映画的な瞬間だった。 だが悲しいかな、それでも四季は訪れてしまう。

今、日本で一番ど田舎を描くのが巧い山下敦弘は、都会とのギャップを笑うわけでもなければ、くだらない田舎讃歌をすることもない。 エピソードも画面も絶妙な切り取り方で、田舎特有の短い列車に余る長いホームを固定カメラで切り取る様は、たったワンショットで田舎の日常を的確に描写する。 消えていくことに気付くと今この瞬間が輝いて見える。そのことに彼女と一緒に気付いた時、何てことのない日常の登校シーンですら切なく思えてくる。 徹底して右田そよ視点で描かれるこの物語は、その輝く瞬間のために、日常をダラダラと、しかし的確に活写するのだ。

余談

主演の夏帆ちゃんは、宮沢りえを一躍お茶の間に浸透させた三井のリハウスのCMを経験し、さらには、宮崎あおい、堀北真希を輩出した「ケータイ刑事」シリーズの四代目を演じた名門(?)出の女優(所属事務所も松雪泰子や柴咲コウ、中谷美紀などを抱える力強い所なのだが)。彼女の気取らない自然体の表情は大変好感が持て、佐藤浩市と夏川結衣の娘であることに妙に納得してしまった。あのチラ見した後に床屋に入る夏川結衣の凄いこと凄いこと。

(評価:★5)

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