[コメント] ALWAYS 三丁目の夕日(2005/日)
建設中の東京タワー。
無論、写真やらドキュメンタリー映像では経験済みの画ではある。しかし、本作は贋物にも関わらず「活きていた」。そこには生活感があり、本物の写真の何倍もリアルであった。
この頃、父と母は結婚し数年後に私は生まれる。だから厳密にはこの風景にノスタルジーを感じる訳ではない。但し、時差はあるがソノ空気は知っている。オープニングからの驚異的な長廻しの映像に鳥肌が立った。否、正確にはスクリーンの端々に散らばる小道具やら背景やらを食い入るように見つめさせられた。
ベタベタのストーリーはこの際どうでも良かった。「懐かしさ」というぬるま湯の風呂にゆったりと浸かる幸福感、神経を研ぎ澄ます必要もなく、すべての筋肉は弛緩し、脳内の記憶装置の一部のみが緩やかに機能する状態で鑑賞する。例えれば、現在の責任感・義務感をすべて放棄して、子供に返って優しい母の胸に抱かれながら眠るような感覚だ。
こんな一部の年代層のノスタルジーを刺激するだけの映画は、ある意味卑怯なのかもしれないが、そんな事もどうだっていいじゃないか。そんな映画もあっていい。
「あっていい」どころか、今は年老いた父と母に何とか観せたいと思った。今まで「怪獣によって折られた東京タワー」に衝撃を受けた事はあったが、今回の「半分しか出来ていない東京タワー」の画は衝撃どころか心臓が震えたのだ。
父と母はきっと覚えているだろう画。父と母にあの頃の話を色々と聞いてみたい。きっとこの映画の上映時間の何倍も何倍もの幸せな時間が訪れるだろう。私が覚えていない記憶。私が知らない時間。父と母が生き生きと踏ん張っていた頃の話を聞いてみたい。
年老いた彼等を映画館まで連れていくのは至難の業かもしれないが、今日の感動を何とか彼等に伝えるよう努力してみる。そして上映時間に倍する幸福な時間を作ろうと思います。
そんなきっかけを作ってくれた本作に感謝します。
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