[コメント] 天国と地獄(1963/日)
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黒サングラスをした犯人の山崎努が印象的だ。あのサングラスは肉食昆虫みたいな冷酷さを感じさせる。彼が麻薬を買ったバーでは、その店の柱がタイル状になっていて、サングラスが複眼になっていた。ぞっとした。死体発見の家のシーンも上手い。まず白い花を写し、花の香りを我々に連想させる。そして、死体の一部を唐突に写す。腐臭を強烈に連想させる。凄い手を使う。花も昆虫つながり。不思議かつ強烈な犯人像を刻印する。そういえば、白い花の中から、にょっきりと顔をだす山崎努が『ソナチネ』に似ていた。北野武も黒澤を観て勉強しているんだろうな、明らかに。あと、犯人逮捕のシーンは、『殺し』にそっくりで。ベルトルッチも黒澤でお勉強みたい。しかし、両監督とも咀嚼感があり、かえって是と評価したい。
初見のときは山崎努の人間像が、いまいち理解できなかった。いかに貧しくともインターンなのだから、いくらでも人生の取り返しがきき、あんな卑劣な犯行に及ばなくとも、と。しかし、再見してみて、ラストシーンで三船敏郎と山崎努が合わせ鏡のように相対する描写で、ひとつの仮説が浮かんだ。三船敏郎は靴職人出身、即ち、皮製品を扱う階層に属することを連想させる。山崎努も その階層出身なのでは。そうかんがえれば彼の人生のパズルが解ける気がした。今でも冷たいアリアが横浜で流れているのか。感慨深い。(あくまでも仮説です。)
以上、書きながら、黒澤が本当に描きたかったのは、とても立派な三船敏郎や極悪非道な山崎努の極端な御両人ではなく、正義感に溢れ、精力的に行動する刑事たちの群像ではないだろうか。天国とは案外、庶民の側にある感じがした。
山崎努が初登場する池の場面にとても痺れた。背後のラジオの「鱒」が切ない。 芸術とはこれ。
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