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[コメント] アウトレイジ(2010/日)

安心して楽しめるリラックス・ヤクザ・ムービー。これだけ死に満ちた作品なのに、作家から死の匂いがしない。それは北野武が、映像を玩具として取り戻したということ。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これまでの15作で、もっとも肩の力が抜けた作品だった。思い返せば北野武はここ数作、「映画にテーマは必要か」とか「表現に才能は必要か」とか、そういう小難しいものばかりと向き合って、楽しくない作品を世に出していた。

 だが、この映画はそうじゃなかった。ただ本当に好きなシーンを撮って並べただけだ。

 『アウトレイジ』はヤクザ映画ではあったが、任侠映画ではなかった。この映画に登場するヤクザたちが殺し合いをする理由は単に「ヤクザだから」であって、義理や人情がどうこうという話ではない。みんなが「ヤクザ」という職業の業務として人を殺しているに過ぎない。もう、『仁義なき戦い』に出てくるようなヤクザはどこにもいないのだ。

 ヤクザ映画の美学が死に様の美学だとしたら、この映画にはその美学をまっとうできた者はひとりもいなかった。玉砕し、宿仇と刺し違えることができた者は、ひとりもいなかった。それどころか北野武は自身を自首させてしまった。『ソナチネ』や『HANA−BI』『BROTHER』で、フィルムに切り込まれた殉死への切実な憧憬は、もうどこにもなかった。

 還暦をこえた北野武はもしかしたら「きれいに死なせちゃもらえねえな」なんて思っているのかもしれない。本作の記者会見では「もう少しボケて照れがなくなったら、コメディやラブストーリーも撮るよ」と屈託のない笑顔を見せていた。

 映画監督としての北野武はきっと、この作品から2周目に入ったのだと思う。死に場所を探すことをやめた北野映画は、これからどんな物語を綴るのだろう。とにかく、長生きしてほしいと願う。

(評価:★4)

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