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[コメント] 仄暗い水の底から(2001/日)

大きな衝撃をうけたのは、その瞬間、「怖さ」が、「悲しさ」に変わったから。その時、私の頭の中を流れたストーリーは… (02.01.19)
らいてふ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クライマックス・シーンの「私がママよ」の一言に、大きな衝撃をうけた。なぜなら、その瞬間、「怖さ」が、「悲しさ」に変わったから。

その時、私の頭の中を流れたストーリー(っていうか、勝手な解釈)

松原淑美(黒木瞳)は子供の頃、幼稚園にひとり自分だけが取り残されていた思い出がある。淑美の叔母も証言しているように、淑美の母親は娘を省みず自分勝手な母親であった。幼い頃の経験は、淑美の性格形成に多大な悪影響を与え、その後の幸せを遠ざけたようだ。

淑美は離婚した夫・浜田(小日向文世)の前にも、河合という男性と結婚歴があって平成6年に長女・美津子(小口美澪)を産んだ。自分の実母とは違う、子供想いの親になろうとしても、淑美の行動は少しずつ歯車が狂っており、河合は淑美の子育て能力に不信を抱く。やがて校閲の仕事で残酷な文章(おそらく、母娘にまつわる醜い虐待、惨劇)を担当させられたことをきっかけに、淑美は病的な心神耗弱状態におちいってしまう。

精神科に通院せざるをえなくなった淑美に対して、河合は離婚をいいわたす。療養中の淑美には当然美津子を育てる能力はないと判断され、美津子は河合のもとへ…。河合は淑美と連絡を断ち、美津子を連れて例のマンション405号室で暮らし始める。男手ひとつで、美津子を育てる河野に苦労は絶えず、仕事に追われて幼稚園に迎えに行くこともなかなかできない。美津子はひとり幼稚園に自分だけが取り残される日々を送る。

平成11年、孤独に耐えかねた5歳の美津子が独りで帰宅途中、偶然エレベーターでマンションの浄化槽整備員と乗り合わせ、ともに屋上へ行く。浄化槽を点検する彼らを遠目に見ていた美津子は、好奇心から整備員が離れたすきに浄化槽を覗く。そのとき滑り落ちたお気に入りのバッグを拾おうとして、美津子は頭から浄化槽に転落。戻ってきた整備員は美津子が落ちたことなど知らず浄化槽の蓋を閉めてしまう。さらに管理人神谷(谷津勲)の手抜きと怠慢から、この日、平成11年7月14日を最後に浄化槽の点検は行われなくなった。

松原淑美は治療の成果と、浜田という理解者に出会ったことにより精神状態も安定、平成7年に浜田と再婚、平成8年に郁子を出産。ただし美津子の存在は淑美の胸の中に秘められ、浜田に明かされることはなかった。以前美津子を失った経験のある淑美は、郁子を溺愛するが、やはり悲劇は繰り返され、あまりにも情緒不安定な淑美に、浜田もまた、郁子を淑美から引き離して離婚することを決意する。

…映画は離婚後、親権を争い調停員と話し合うこの場面から始まる…

通常よほどのことが無い限り、未就学児の養育は母親にまかせられることが多いのだが、淑美の精神的な弱点があらわになって、離婚調停は淑美に不利な方向へすすみつつある。

そして淑美と郁子は、なにかに引き寄せられるかのように、あのマンション305号室に入居する。白菊幼稚園で行方不明児を探す看板と、行方不明児にあてて画いた子供達の絵を見たとき、淑美はその中に生き別れた我が子と同じ名前を見つけて愕然とする。405号室の玄関で見かけた黄色いレインコートの子、あの子が別れた我が子・美津子なのだろうか。いや、偶然名前が一致しただけなのかもしれない。しかし、405号室の表札に元夫・河合の名前をもみつけた淑美は、行方不明の美津子が我が子であることを確信する。

ここからの淑美の行動は複雑だ。精神的に安定していることをアピールしないと親権を浜田に奪われてしまうという状況のなかで、「仄暗い水の底から」引き起こされる数々の怪現象におびえる毎日。最愛の郁子を守ると同時に、もうひとりの我が子、美津子の行方も探し出さなければならない。

そしてエレベータでのクライマックス・シーン。最愛の郁子の目の前で、不遇の子、美津子から首を絞められる淑美。一度は「わたしはあなたのママじゃない」と否定したものの、次の瞬間、その行為は自分が幼い頃母親から受けてきた仕打ちと同じことだと気づく。そして意を決した淑美は郁子に「来てはいけない」と言い放つ。

この「来てはいけない」は、郁子を危険から守るためだけに言ったのではないように私には思えた。自分の命をもって、美津子の不幸を償う決意、そして愛する郁子との永遠の別れを誓ったひとことなのだと思う。

もう迷いは無い。淑美は腐り果てた我が子・美津子に言った。

「………………私がママよ………………」

それを聞いた美津子は恨みを忘れたかのように、やすらかに母親に抱かれた。ふたりの姿はエレベータに満ち満ちた大量の水となって、郁子を押し倒し、流れて消えた。

そして10年後、事件以来、父・浜田の元で育った郁子は、15歳の高校生。なにかに引き寄せられたかのように、あのマンション305号室に足を踏み入れる。そこでは、今も母、淑美の魂が美津子と一緒に昔のままの姿で存在していた。幼い頃の記憶をほとんど失っていた郁子だったが、母の魂と再会したとき、母親がずっとここで自分を守ってくれていたことを確信する。淑美の母、淑美、美津子と受け継がれた不幸の連鎖は、この瞬間断ち切られたのだろう。

〜THE END〜

02.01.19 screen 278seats DOLBY STEREO

(評価:★4)

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