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ルース・エドガー(2019/米) | 深刻な話材を深刻なまま語ってしまった辛さはあるも、ケルヴィン・ハリソンJr.の造型が精妙な加減を保つなど芝居の充実は一入だ。「正体不明」は端的にサスペンスである(その最高純度は『断崖』)。「役割(role)」は虚構に過ぎない。しかし私の正体を私は知らない。「正体」もまた虚構かもしらん。 | [投票(1)] | |
ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん(2015/仏=デンマーク) | ほとんど唯一にして最大の不服を唱えるならば、これが一話二四分×五二話のヴォリウムを備えて私たちの前に現れなかったことである。『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』と名づけられた幸福の時間は、嘆かわしくもわずか八一分間ばかり続くにすぎない。これではいかにも観客が不憫でないかしら。 [review] | [投票(2)] | |
リチャード・ジュエル(2019/米) | クリント・イーストウッドの『間違えられた男』。「濡れ衣」「取り違え」もイーストウッド的主題だ。むろん彼の作品歴でも屈指の傑作たる『ミスティック・リバー』『チェンジリング』に伍する作劇の殺傷力は望めないものの、それらが忘れていた二の句を失わせる催笑演出でシーンの活性化が図られている。 [review] | [投票(5)] | |
真実(2019/日=仏) | カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークはさすがに横綱大関の取り口。この難易度の役柄を御するのは造作もないとばかりの綽々芝居で、観客にもリラクゼーション効果が波及する。劇中劇でドヌーヴの向こうを張る「大器」役をどうにか全うしたマノン・クラヴェルが敢闘賞を受賞。 [review] | [投票(4)] | |
アド・アストラ(2019/米) | 冒頭、巨大アンテナ崩落のスペクタクルに大いに目を瞠る。推測の域を出るものではまったくないが、ディジタル描画班を下請け的に扱って丸投げしていては、このような画面造型は決して生まれないのではないか。確かな演出の意思が漲っている。無重力空間に漂う死体の姿勢にも何やらこだわりがありそうだ。 [review] | [投票(3)] | |
火口のふたり(2019/日) | 柄本佑は飄々とした振舞いの内に暴力や自壊の危うさを漂わせて適材。堂々とした瀧内公美も佳い。堂々とは、脱衣を含む演じぶりが、という以前に骨格が、である。やはり(役柄に依存し、撮り方にも大きく左右されるのは当然にせよ)画面に君臨すべき主演女優にはある程度以上のサイズが伴っていてほしい。 [review] | [投票(4)] | |
アス(2019/米) | 都市伝説の真顔語り。あるいは法螺ホラー。『ゲット・アウト』より『イット・フォローズ』の次作と云ったほうが得心の捗りそうな味わいは、当然ながらマイケル・ジオラキス撮影の醒めた文体に拠るところが大きい。物語は畢竟、原題の意味するものが「私たち」から「合衆国」へ移行する過程、それである。 [review] | [投票(1)] | |
SHADOW/影武者(2018/中国) | 血滴子にソニック・ザ・ヘッジホッグ的解釈を施したがごときメタル傘の集団滑走など、色彩・美術・プロップは高度にファンタジーを達成する一方、生々しい感情の劇としても面目を保って堅調の作だ。「女の戦闘力が当然に男より劣るとする道理はない」という中華電影の伝統的世界観にも正しく拠って立つ。 | [投票(2)] | |
誰もがそれを知っている(2018/スペイン=仏=伊) | 故国を離れていよいよ露わなアスガー・ファルハディ最大の作家性、それすなわち「別嬪揃え」である。役の大小と老若を問わず、女性(にょしょう)とあらば美形を配さねば合点しない。一方の男衆は概ね髭達磨。ファルハディ作劇の基礎が男女の布置按配にあるならば、それは別嬪と鬚髯の力学と換言できる。 | [投票(2)] | |
ブラック・クランズマン(2018/米) | バディ・ムーヴィとしては粗末である。ジョン・デヴィッド・ワシントンは発端こそ作るものの潜入捜査における貢献が過小だ。またアダム・ドライバーが相対的に優秀に過ぎ、彼が電話対応を兼務しない道理がない。白人の差別主義者を虚仮にするのは当然だが、黒人主人公をも頓着なく侮った演出は不穏当だ。 | [投票(2)] | |
デイアンドナイト(2019/日) | 前作『青の帰り道』および次作『新聞記者』も併せて見るに、藤井道人はどうも「遺品」を好みすぎる。危うい性向だ。半径五米以遠を描こうとするや途端に浮ついてメルヒェンに片足突っ込むのも習い性か。総じて紋切型の不用意な運用に難が多いが、油塗れの組んず解れつ演出は場の選定も含めて意気軒昂だ。 | [投票] | |
僕はイエス様が嫌い(2019/日) | 子役遣いは米仏の水準に迫り、フィクス主体のコンティニュイティにも好感する。さて、とまれ「カミ」の映画である。これというのは、観客一〇〇人が一〇〇人「神」の映画であることを易々と諒解しうるよう誂えられた『僕はイエス様が嫌い』は、それと同時に「紙」の映画としても企まれている、の謂いだ。 [review] | [投票(3)] | |
ハウス・ジャック・ビルト(2018/デンマーク=仏=独=スウェーデン) | Jack第一の殺人の凶器がjackであるなど地口的な発想がハートウォーミングだ。「家」やら「地獄」やら、抽象観念を具体描写に変換する術に芸を凝らすことなく最短距離を突っ切りたがる猪突感も可笑しい。ラース・フォン・トリアーには確かに才能がある。ただしそれは四齣漫画作家に最も適した才能だろう。 | [投票(2)] | |
新聞記者(2019/日) | より適切な標題は『官僚』である。ワーカホリック映画への志向が興趣を誘うが、労働の細部に関して埋めるべき余白は質・量ともに小さくない。「ハンドクリーム」などはよい。また、作劇の動力源と目的地が「情緒」であることを了とする限りでは成功作だろう。私だって西田尚美さんを泣かす奴は許さない! | [投票(2)] | |
サムソンとデリラ(2009/豪) | 士師記との関連は不分明(断髪は一応あれども)。少年少女はともに映画に適った不敵な面構えで、暴力の突発や日常的なガソリン酔いが独特の緊張と倦怠を招く。台詞は極少だが、後に『ソウルガールズ』のカメラを受け持つ演出家は音楽に多くを語らせている。浮浪者が突如トム・ウェイツを歌うシーンあり。 | [投票] | |
グリーンブック(2018/米) | ヴィットリオ・ストラーロの孤独な闘いが実を結んだのか、『ヘレディタリー 継承』『ビール・ストリートの恋人たち』そして本作と、一対二のアスペクト比が近時とみに流行の兆しを見せている。フィルム撮りがほぼ絶えた今日、アス比のみを取り上げてこれをユニヴィジウムと呼んでよいのかは知らねども。 [review] | [投票(10)] | |
ファースト・マン(2019/米) | デイミアン・チャゼルには「作中人物が無個性・反魅力的造型に留まることなどお構いなしで自らの語りに邁進できる」という、どうにもありがたからぬ潔さというか作家性というかがある。「長女の早世」一点に立脚して心理的解釈を施したニール・アームストロングの業績を低温かつ微視的に語り切るのだが。 [review] | [投票(9)] | |
女王陛下のお気に入り(2018/アイルランド=英=米) | 宮廷コスチューム・プレイとしてはおそらく申し分のない質に達しているのだろう。当時の人工光源状況に倣って積極的に屋内に暗所を配しつつ、美術と衣裳に贅を尽くしている。かつてのバリー・アクロイドと同様に、このロビー・ライアンもケン・ローチ組を離れた途端むやみに凝った画作りを頑張り始める。 [review] | [投票(6)] | |
ファントム・オブ・パラダイス(1974/米) | 真に特筆すべきはウィリアム・フィンレイの運動神経だろう。強引きわまりない力任せの脱獄をかましたかと思えば即行シームレスでレコード会社にカチコミをかける。このファイトはアッパレに価する。クライマクスの大立ち回りも同様。アクションとヴィジュアルにおける演出の範は正味カートゥーンである。 | [投票(2)] | |
ビール・ストリートの恋人たち(2018/米) | マーク・フリードバーグの仕事は期待に違わず、ジェームズ・ラクストンの撮影も全篇を通じて第一級の充実ぶりを誇る。キキ・レインとステファン・ジェームズが登場する巻頭シーンの息を呑むような美しさには「このような黒人の肌の発色はかつて映画で目にしたことがないかもしれない」とまで思わされる。 [review] | [投票(2)] |