最後の宍戸錠のくだりは蛇足の蛇足──ガックリだ！それについては後述。

　ひとりのアイドルのファン同士ということしか知らない、初対面の５人の男。それぞれの素性が明らかになるにつれてひとつの謎が解け、新たにひとつの謎が生まれるという展開はたいへん牽引力があり、特に安男（塚地武雅）の出入りのタイミングと気の持たせ方は絶妙のひと言。画面に登場していない間も常に存在感を放っている。キャラもそれぞれに立っていてキッチリ笑えるし、一幕モノのミステリ喜劇としてはひとつの到達点と言ってもいいのではないだろうか。

　真なるアイドルヲタ映画と評したのは、この映画がアイドルとファンとの理想的な関係を描こうとしているからだ。全員の素性が明らかになると、アイドル如月ミキは完全にファンの手を離れてしまう。だが、すべての謎が解き明かされたとき、再び彼女はファンの元に戻ってくる。

「アイドルにとって、ファンは命より大切なモノ」

　誰もそんなことは信じちゃいない。だけど、もしあの娘がそう思っていてくれたら、どんなに素晴らしいだろう……『キサラギ』はアイドルヲタにとって、幸福極まりないファンタジー映画なのだ。

　だからこそ、ファンタジーはファンタジーのまま終わらせてほしかった。如月ミキのヘッタクソな歌に合わせてノリノリで踊り狂って、そのまま終わらせてほしかった。彼ら５人だって、自分たちが導き出した結論はひとつの可能性でしかないことくらい解ってるんだ。それでも５人は「あれは事故だった」と信じて生きていこうと誓ったはずなんだ。アイドルを失った彼らにとっての、それが何よりの救いだったはずなんだ。如月ミキという「偶像」が、他でもないこの５人を集めて導いた結論なんだから。

　だから宍戸錠が最後に提示した謎に神妙な顔で食い付く彼らの表情は、これはあってはならないシーンなのだ。だって如月ミキの遺志は（たとえ彼らの思い込みであったとしても）イベント司会者の推測なんかよりずっと重いはずだろ。「いやいや宍戸サン、それはもうボクらにとっては終わった話ですから」って一笑に付すくらいじゃなきゃ、彼らのアイドルに対する思いがウソくさくなっちゃうよ。

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　とまぁ、なんだかんだ言っても★5です。すごく面白い映画だった。

　理想を言えば青山円形劇場あたりの舞台で見たかったのが正直なところ。だけど実際問題としてこのキャストで拘束時間の長い舞台稽古は無理だろうし、仮にスケジュールが合致したとしても採算取ろうと思ったら入場料は９０００円とか１万２０００円とかだろうし、それでもチケットは即日完売だろう。だから映画でよし。