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[コメント] 下妻物語(2004/日)

これは断じてビルドゥングス・ロマンなどではない。だが胸を打つのは、ここに出てくるガキどもが己の信念を貫き通す、半端ではないオンナ達だからだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







桃子はエゴイストでナルシストである。自分が価値観を見いだしたこと以外には一切関心を示さない。だから友達がいないが、それを少しも恥じることなく、週末には代官山に可愛い服を買いに行くことだけを生き甲斐にしている。そして、それに使う金が切れれば父親から貰い、あるいは父が作らせたバチモンのヴェ●サーチ製品を売ることすらも辞さない。

その彼女に友達ができる。イチゴである。彼女は免許がとれず50ccの原付にしか乗れないが、己が走る意味をきちんと把握してレディースをやっている。

この二人の「水と油」具合が面白く、中島監督らしいどつき漫才(どつかれると地面にホントに倒れる)が何とも爽快なのだが、お互いを知ってゆくうちに、おのおのが悲惨な少女時代に閉じこもった「殻」のなかで力をつけ、殻をヨロイにまで昇華させていることを聞かされる。これが現在の彼女たちなのだが、物語のなかではさらなるステップが用意される。桃子は刺繍の腕を見込まれ、プロの仕事を任されること。イチゴは暴走グループの拡大と小グループの吸収。それらはおのれの意地を捨てても飛びつきたい理想であったか?

桃子は好きな服を「買って着たい」のだし、イチゴはただ独りでも「走りたい」のだ。そして彼女らは自分の欲求を捨てて他者に擦り寄る道を拒む。それは「成長」を拒むのとはちょっと違う。己の価値観を貫くことなのだ。だが無二の朋友のあいだでの「成長」はあったかもしれない。ナルシストなりに桃子は友情に体を張り、イチゴの危機を救う。イチゴはそれを、今までのように「借り」と考えるが、やがてそんな「貸し借り」は無用だと気づく。このへんの二人には侠気がある(恋人を先輩に取られて泣きたいイチゴに背中を向け、「ここには誰もいないよ」とつぶやく桃子もそうだ)。このあたりを見れば、ベタな表現ではあってもアイドル映画とはこの映画は無縁だと気づく。孤独な奴ら(含む:男子)への応援歌だ。女の子でなくても、共感できる部分は容易に見つけることができるだろう。

ただし、ひとつだけ文句を。エンディングに少女ロッカーの定番「タイムマシンにお願い」は安易すぎやしないか?ギャグとしての「♪盗んだバイクで走り出す〜」とは違うのだ。ここは一番、菅野よう子にまだ一般的に認知されざる実力を発揮してもらいたかった。それだけ。

(評価:★5)

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