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[コメント] クローバーフィールド HAKAISHA(2008/米)

大状況を提示しながら描かず、小状況の描写に終始することをリアリティとは思いたくない。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アイデアそれ自体が新しいとは思わないが、よく工夫された、なかなか面白い映画だったと思う。しかし、それ以上の映画ではないことも明白だと思った。オレは曲がりなりにも怪獣が出てくる映画が「なかなか面白い」程度のヴォルテージの低さであることが許せない、我慢できない、勘弁ならないという不治の病を患っている身なので、以下に書くことは文句ばかりになってしまう。

この映画では、怪獣の出現前に描かれたドラマが怪獣の出現後も継続して続く。非常事態の中、主人公たちが別嬪の彼女を助けに行くという救出行が描かれる。アメリカさんは、愛の絆だの家族の絆だのといった物語が本当に好きだ。個人の物語としてなら、オレだって別に文句はない。

しかし、この映画には大いに文句があるのだ。それは、曲がりなりにもこの映画が怪獣の出現を描いた映画だからだ。

これが地震や津波の自然災害なら、こういうドラマがあっていい。テロの如き人為的災害であっても、こういうドラマがあっていい。しかし、よく考えてほしい。この都市には、怪獣が出ているのだ。

怪獣が出てんだよ。この意味を、真剣に考えてほしいのだ。

人でなしと思われても構わねえ、ズバリ書いてしまうと、怪獣が出てるってのに何を普通の映画みたいに彼女の救出劇をやっておるのかとオレは言いたいのだ。そんなもんを、観客が本当に観たがっているとでも思っているのだろうか。

未曾有の天変地異の中、愛する人を助けに行く。そりゃいい話だろうよ。結構な話だよ。そういうの好きなんだろ、判らんでもないよ。しかし、オレがそれにつき合わされるのは真っ平御免なのだ。なぜなら、言うちゃ悪いけどお前の彼女の生死より8000倍重要な出来事が、すでに起こっているからだ。お前が彼女を助けに行くのは一向に構わんが、オレはそれにつきあう気は一切ないんだ。この状況下においては、お前の彼女一人の生死はオレにとってどうでもいいからだ。オレはより大きな視点、怪獣を中心とした「大状況」が観たいのだ。

この映画では、大状況がまったく描かれない。一般人がたまたま持っていた、たった一台のビデオカメラが捉えた映像がすべてだ。それがこの映画のリアリティなんだと言われれば、オレには返す言葉もない。そうですかと言うしかない。しかしそれでも疑問は生じるのだ、膨大な疑問が。この映画は疑問に答えない。オレが苛立っているのは、最初から疑問には答えないと作り手が決めているが故に、疑問の答えはどこにも用意されてないのであろうと容易に想像できるからだ。

怪獣出現以降、映画の興味は怪獣からどんどんズレてゆく。これがオレにとっては耐え難い。作り手は、怪獣から遠く離れた斯様な展開をさせて平気なのだろうか。正気を疑いたくなる。彼女のマンションが傾いて隣のビルに寄りかかっているくだりなんか、本当にひどい。それは怪獣のせいでさえなくて、ただ脚本家のサジ加減ひとつだろ。「傾いたビルにどうやって入るか! 彼女をどうやって助けるか! サーみんなで考えよう!」 そんな心底どうでもいい話、怪獣の出てこない普通の映画でやってりゃいいと思うな。

(評価:★3)

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