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[コメント] サマーウォーズ(2009/日)

びっくりだ。おもしろくない。
イリューダ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ところで私は花札のルールを知らない。それはいい。けれども同時に本作の作劇上のルールも、よくわからないまま観終わってしまった感がある。

作中で重要な舞台となるのは「オズ」というネット上にある架空の都市である。で、あるならば、そこで繰り広げられる戦いは我々が現実に体験する、常識や物理法則を超越したものになっておかしくない、と思うのだが…。これは『マトリックス』でも言われてたことだけれども、電脳空間の中での闘いを見せるのに、カンフーによる対決以外の方法はないのか。それが一番わかりやすく、見せ場も作りやすいというのはわかるが、観客に斟酌を求めるような物語が上等のものとは思えない。そして、この「オズ」という空間では何ができて何ができないのか、どうも感覚として実感できないために、終盤の危機たたみ掛けの部分でもどの程度の危機なのか、そこからの大逆転はどれくらいの奇跡なのか、がわからない。登場人物とともに手に汗にぎることができないのだ。

また、個々のキャラクターの説得力にも問題があると思う。プロのシステム管理者が復旧できないシステムを外部からひとりで復旧してしまうようなスーパーハカーの能力を「数学オリンピックで日本代表寸前まで行った」だけで説明できるとは思えないのだが。また、最後の花札による大勝負で夏希先輩の見せ場を作るなら、その前に彼女が一族中でも最強であるとか、お婆ちゃんに秘伝を伝授されてるとか、なにか伏線がいるのではないだろうか。ところが実際には彼女は作中で侘助にひねられているのである。ヒロインに見せ場が必要なのはわかるが、きちんと彼女でなくてはならない理由を納得させて欲しい。さらに、後半で主人公の健二が彼を嫌ってた翔太を「翔太兄」といきなり呼ぶのだが、その時点で彼らの心の交流は描かれておらず、非常に唐突な感じがする。

これらひとつひとつは細かいことだが、それらが積み重なると物語への没入を阻害するのである。もうろくする前の宮崎駿は、ここがとてもとても上手かった。全体として物語のつじつまがあってなくても、キャラクターの行動原理と物語の指向性が明確なために全く気にならないのだ。そういう宮崎の魔法(あるいはイカサマ)の技術は、細田守には感じられない。

付け加えれば、そもそも主題と物語の結構がマッチしていないのではないか。アメリカ国防総省が電脳兵器の実験で世界中を混乱させ、さらには大規模な原子力事故の危機まで作り出した、って、それは世界のパワーバランスを変えかねないほどの大事件である。家族の絆や少年の成長を描くのに、ここまで大掛かりな装置が必要とは思えない。

それぞれのシーンには、息を呑む美しいシーンや目頭が熱くなるシーンもあった。「僕のアカウントを使って」のいわゆる元気玉展開は陳腐ではあるが大好きだ。(しかしこれだって夏希が負けたら自分が死ぬかもしれないんだからもっと早くやれ、という気もするが。)花札がキーアイテムになるのは、お婆ちゃん役が富司純子だからだろう。そういうセンスは好きなのに、全体としてはあまり高い評価はできない。総じて言えば残念な映画だった。

(余計なことですが、神木隆之介くん、演技力劣化してません?『ハウル』のときは「声優としてもすげえ!」と思ったのだが…。監督に「わざと棒読みっぽくやってください」とでもいわれたのかしら。)

(評価:★3)

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