[コメント] メメント(2000/米)
日記ぐらいつけろよ!
観ている最中は、こっちがメモ取らなきゃいけないくらい、脳味噌総動員してるから、ツッコミ忘れてしまうんだよな。そういうスカスカの「穴」を構成の妙(と言えるかどうかはさておき)でカバーつーか、誤魔化している。
で、今、アルコールでボンヤリしたこの脳でも、ツッコミどころ満載で「ツーカの嵐」な映画。
そもそも、主人公がかつて保険会社調査員という設定に信憑性がない。「メモ」ってのは、論理的思考ネットワークの末端であって、最終的にはあるひとつの結論を導くために、必ず再構成して(その際には、勿論、不要な「メモ」もあるから間引かねばならない)初めて価値がある代物。そんなの、感想文もどきのクダラン論文しか書けない大学生だって知ってるよ。そんな基本的なことを、事件を調査、データ収集、再構成、レポート作成、推敲し、それでメシ食ってる保険調査員が怠るハズがないじゃないか(それでメシ食ってる友人アリ)。それも、自分の妻をレイプし殺した犯人探しだぞ。しかも、自分は10分しか記憶が保持できないんだぞ。なら尚更、注意深く、思慮深く、緻密に調査を進めるハズじゃねーかよ。
つーか、なんで手書きメモとポラロイド写真なんだよ。ポータブルレコーダーとかパソコンとかデジカメとか持っとけよ!つーか、調査員だったんだろ!つーか、いつの時代の話なんだよ!つーか、もっと知恵と道具を総動員しろよ!つーか、つーか、っー…(echo)…(fadeout)
(fadein)…前に大学の認知心理学と情報処理心理学の授業で、NHKのドキュメンタリービデオを見たのだが、まさしくこの前向健忘症患者を取り上げた作品だった。
確か、彼はスティーヴンという名だったと記憶している。彼はケンブリッジ大学で弁護士を目指し法律を勉強していた秀才だったが、ある日、教授の部屋で突然倒れ、そのショックで脳内の記憶能力を掌る海馬に損傷を受け、短期記憶ができなくなってしまった。それでもその後数年、なんとか法律家になろうと懸命に努力するが結局は叶わず、この映画にも登場する、作業記憶と手続き記憶(いわゆる「体で覚える」記憶、訓練で自動化される)のキャパシティーを利用し、家具作りで生計を立てようと奮闘するのである。
そんなスティーヴン氏の毎日は、この映画の主人公の毎日がお気楽に見えるほど、壮絶だ。起こっては消えていく霞のようなコトガラを、常にポータブルレコーダーに吹き込み、夜、就寝前にノートにまとめる。そのノートが、彼の脳の一部なのだ。発症後すでに十年近くの年月が流れ、その「ノート」も膨大な量となっていて、カメラがそれをとらえた時、改めて人間の脳が驚異的な宇宙であることを感じた。
そして更にカメラは、スティーヴン氏が発症前から不仲である母親と何とか絆を取り戻そうとしている姿を追う。彼は、この映画の主人公と同じく、発症前の記憶は再生可能なのだが、それはこの家族にとって悲しい事態を招いていたのだ。なぜなら、彼には、母親が父親と離婚し家族の元から去った姿、彼にしてみれば「捨てられた」という悲しみと怒りの記憶しかないのだ。だから、どれだけ事態が緩やかに好転し、母親にもそうせねばならない理由があったのだと理解しても、その「理解」はすぐに消え去り、彼らは何度も関係を再構築せねばならないのだ…(fadeout)
…そんな素晴らしいドキュメンタリーを先に観ていたから、本作にもかなりの期待を持っていたからこその「ガッカリ」なのかもしれない。その前向健忘症への、底の浅い理解と、エンターテイメントのための「道具」の域を出ないカルさが、この「ナンダカナー感」をもたらしているのだろう…
…「どうやった?」「…(苦笑)…疲れた」「ホンマ、久々脳使こたって感じやな」「脳味噌使こたら、甘いもん食べたくなるってホンマやな」「あかんで、もうちょっとしたら、てっちり食うねんで」「そや、そや。場所どこ?」「難波の…」…
なんて鑑賞後10分も経たないうちに『メメント』のことなんぞ忘却の彼方、心は、それから向かうことになるバーゲン巡りとてっちりと殺人的寒さに向かう。
勿論、娯楽映画にコレ以上のものを求めるのは野暮というものかもしれない。だが、鑑賞後に残る「何か」、そんな余韻がほとんどないという点が、3点どまりな理由だ。「リワインド・ムーヴィー」という構成にしても、比較対象にするのも申し訳ないけど、『イングリッシュ・ペイシャント』の原作本の方が数段上手だし、言ってしまえば、編集方法がチョイと目新しいだけで、構成はありきたり。
…「なぁなぁ、今度『メメント』つー、ごっつうオモロそーな映画あんねん。行こ!」…なーんて言ってたっけ。
どうッスか?驚異のリワインドコメント&レビュー!
[1.3.02]
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