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[コメント] 突入せよ! 「あさま山荘」事件(2002/日)

何の変化もない遠景の山荘の映像に釘付けになった10日間。苛つきながらもリアルタイムの「戦争」に狂喜した当時の自分を恥じて号泣。Reviewは余談&余談・・・長文です。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







余談1:原作者佐々淳行氏の祖先は、水戸光圀公の大日本史編纂に辺り総裁を務め全国を調査した佐々十竹(ささじゅちく)(介三郎宗淳)(1640〜1698)である。一般的には助さんとして知られている。

余談2:さらに先祖を遡ると信長の馬廻り衆(親衛隊)を務め、後に秀吉に切腹させられた佐々成政の一族にあたる。ちなみに本年の大河ドラマでは準主役の位置であり、佐々の妻は天海祐希が演じている。そして今回の原作者でありモデルの佐々氏の妻を演じるのも天海祐希である。

余談3:この事件の過酷な気象条件を契機に世界に飛躍したものがある。日清のカップヌードル。当時どこの問屋・小売店でも見向きもされなかった商品を機動隊と記者団に配ったところ、極寒の地で湯気をたてて奇妙な食べ物をすする映像がお茶の間に流れた。このニュース映像がなかったら世界標準になったこの食べ物は世に出る事はなかったという。ちなみに私は今、これを食べながらコメントを書いている。

REVIEW

この事件の映画化を切に希望すると同時に、犯人が存命中は映画化は無理だとあきらめていただけに、今回の映画化はこの事件が既に過去の「歴史」として認定された証拠であろう。もはや毛沢東を尊敬する大学生は存在しないし、よど号のメンバーは泣いて帰国を懇願し、老いた重信のピースサインにかつての同志たちは時代錯誤と冷笑する。

もはや日本で社会主義革命が起こる事はありえない。歴史は確定した。

この事件の主役は警察でも犯人でもなく、ブラウン管の前に学校も仕事も忘れて釘付けになった視聴者だった。この作品では数々のドラマを生んだ視聴者側のエピソードを省き、さらに重要なキャストである犯人側も一切描かない事で僅かな時間枠という映画化を見事に成功させた。

事件を当事者の両側からでなく片側だけから描く手法は、私の拙文『13デイズ』のコメントでも書いたように、当時の犯人側の状況が全く掴めないまま作戦を指揮した警察側と観客の意識を一体化させるのに最適の手法であったと思う。当時の警察と視聴者も山荘内の事は何一つ分からなかったのだ。

日本史上これほどまで有名な事件はなく、誰もがリアルタイムで「すべて」を実体験した事件もなかった。誰しもがあの10日間を緊張しながら共有したのだ。皆、事件の経過も結末も良く知っている。

こんなにアノ事件を知りながらも、我々は「遠景の山荘」しか知らない。実際の至近距離での事件は知らなかったのだ。関係者の著書やドキュメンタリー番組で「至近距離」は徐々に明らかになってはいるが、突入のクローズアップは誰も見た事がなかったのだ。

遠景で見ていた米粒のような、カメラに捕らえられなかったあの場所であんな凄惨な闘いがあったとは・・・警官が死んでいくシーンで何故か涙が溢れてしまった。アクションシーンで涙が出たのは初めてです。

ある意味、突入シーンを映像で再現する事はタブーであった。殉職者もいるし、未成年だった犯人たちもいる。また犯人が人質の女性に暴行をしたのではないかとの噂も絶えない。

そういった意味で、これを映像化した勇気には敬意を評する。さらに警察内部の対立という「恥」をここまで公にした事も評価されるべきじゃないか?警察や外務省、雪印などの体質が問われる現在、組織としての危機管理の失敗と成功例としての作品としてだけでも存在する価値はある。

追加:事件後に判明した恐怖

*逮捕当日に犯人のリーダー格のBの父は首を吊って自殺した。

*警察が拳銃で発砲した弾はわずか16発。しかも、それは威嚇射撃であった。連合赤軍側が発砲した弾は104発であったという。

*説得工作に駆り出されたTの両親だったが、篭城していると思われたTは現場にいなかった。また犯人5人の内二人は19と16のK兄弟だったが彼らの長兄も見当たらなかった。さらに吉野の妻もいなかった・・・そして逮捕から7日後に「あさま山荘事件」がかすむような凄惨な事件が発覚した「総括リンチ殺人事件」・・・・・

前年までに大量の逮捕者を出し、少数になってより先鋭化していた赤軍派と京浜安保共闘が榛名山で合流し、連合赤軍が誕生していた。メンバーは29人(うち女性10名)。

両派を率いていた森と永田は革命の為と称し、メンバーに自身を総括する事を強要し、山中のアジトは人民裁判の場と化す。化粧をしている等の些細な事でも死刑を宣告され、夫婦・恋人・兄弟が刑を執行しあった。刺殺・撲殺・絞殺・凍死・苦しみのあまりに舌を噛み切る者。女性の死体は必ず丸刈りにされていた。特に容姿端麗な女性は裁判官たる永田洋子の嫉妬をかい処刑の対象になったという。

だが、当の永田は夫である坂口にキャンプ中に一方的に離婚を突きつけ、森と結婚宣言をした。

29名中、粛清を恐れた4名が脱走に成功し、12名が処刑された。アジト変更の為に山を降りた13名は次々に逮捕され、最後に残った5名が「あさま山荘」に逃げ込んだ。

彼らは自分が殺した同志たちの親の説得の声をどんな気持ちで聞いていたのだろうか。

*翌年の元旦、「あさま山荘」に逃げ込む前に逮捕されていた最高幹部の森が拘置所で首を吊った。

*5名の内、第2機の内田警視を狙撃した坂東は、新設された日本赤軍が75年に起こしたクアラルンプールの米大使館事件での超法規措置で出国し、日本赤軍に合流したが、坂口は死刑を覚悟で誘いを断り残留した。結局、死刑判決は永田と坂口の元夫婦のみであった。

もうあれから30年も経った。 最後に、長文をお読み下さった方に御礼を申し上げます。

(評価:★5)

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