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[コメント] 華氏911(2004/米)

巷に流される全ての情報は本来恣意的なものであり、むしろ問題はその恣意的な情報を両手一杯に持たされた我々が、その上で「自分は何をすべきか」を学び、考えることなんです。
Myurakz

 まず最初にスタンスを明確にしておくと、僕は「政治的手段としての戦争」を何としても否定したいと思っている人間であり、「その手段を実際に活用した」ブッシュという大統領を、他の何がどうであれ絶対に認めることができないと思っている人間です。

 その僕がこの映画を観た上で感じたのは、それでも尚その「恣意的な匂い」でした。「ステーキを食べているシーン」の前に「男が懸命に働くシーン」をくっつけるのと、「屠殺場で殺される牛のシーン」をくっつけるのでその意味合いが大きく変わってくるように、巧妙な、そして絶妙なブッシュ批判への計算を感じたんです。そしてこれは多くの方々が同様に感じられたことなんだろうと思います。

 映画の中で、米国政府は自国民に対して巧妙な情報操作を行います。「イラクは悪い国だ」「テロの危険はまだ去っていない」。そして今度はマイケル・ムーアがその材料を使って我々に情報操作をしてくるんです。「悪いのはブッシュだ」「悪いのは共和党だ」。そもそも政治的に公平なスタンスで映画を作ろうとするのであれば、「ブッシュはこうだったが、ではゴアが政権を取っていたらどうだったか」「どうすれば9.11を、そして対イラク戦争を避けることができたのか」を描かないといけないと思うしね。

 ですが僕自身、この映画にそんな公平なスタンスを取る必要があったとは感じていません。何故なら情報とは本来において恣意的なものであるから。「あいつは悪いヤツだ」、「ダイエットにはこれが効く」、「この店は美味しい」、全ての情報には「その情報を発信した人の意図」が加えられています。「商売を成功させたい」、「好きな女の子を落としたい」、「情報通だと思われたい」。ムーアもそれに従って、己の流すべき情報を流したに過ぎないんです。それも非常に効果的な方法で。もちろんその方法を全肯定はしないけどね。

 情報は求めさえすればいつでも我々の手元に入ってきます。そこで逆に我々に求められるのは「情報を見極めること」なんです。本当に正しいことを言っているのは誰なのか。その「事実とされていること」は本当に事実なのか。考えてみれば、ムーアと話してる反ブッシュの人たちが、本当に肩書き通りの人なのかすら僕は知りません。その辺のホームレスにギャラをあげて喋らせていたとしても、それに気付くことなんてできない。だからこそ「考え」ないといけないんです。「学ぶ」ことが必要なんです。

 そういった意味でいうと、この映画は結論ではなくむしろスタートなんです。我々にとってのね。そしてそのスタートが「かなり事実と信じたくなるようなモノ」であり、且つ「非常に面白く観られるモノ」であったということにおいて、僕はこの映画を大いに評価したいと思っています。

(評価:★4)

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