[コメント] 息子の部屋(2001/仏=伊)
―「おはよう」や「ただいま」の馴染んだ声、隣で走る息遣い、自分では決して聴かないアメリカ製ポップス、十代の甘い匂いのする汗、まるで死が迫っていることを悟っているかのような安らかな笑顔―
その「持ち主」が去ったあと、家族は、なんとかその抜け殻の「器」を再現しようとする。それが、残された者同士の慰め合いだったり、傷付け合いだったり、慟哭や押し殺した涙だったり、怒鳴り声だったり、ラジオの音だったりもする。もちろん、彼の残り香のする衣服であったり、部屋であったりもする。
だが、彼らは知る。それはまさに「器」でしかないことを…
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続きは、下のネタバレで書くが、正直、見終わった直後は予想通りの「着地点」で、肩透かしをくらったような、そうでないような、ガッカリしたような、ホッとしたような、複雑な心境だった。いろんな意味で「結局、なんだったんだろ」だったし、普段ならそういう場合ケチョンケチョンに言いたくなるのだが、この映画に関しては、ほわ〜んと、心の中がじわじわ暖かかくなり、「まっ、いいか」と思えてしまう、不思議な魅力がある。点数も、見方によっては、5点から1点まで様々な反応がでる映画だと思う。
とにかく、「思いっきり泣きたい」とか「映画で癒されたい」とか、そういう類の気持ちを携えては、見ない方がいいでしょう、ハイ。
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注意:以下、ネタバレ!
映画の詳しい内容、ラストに触れているreviewです。未見の方はお読みにならない方がよろしいかと存じます。
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僕も、あの息子の部屋に何か大変な秘密があって、化石盗難事件の顛末とか、あの女の子への彼が書いた手紙とか、実は自殺で家族への遺書があったとか、そういう劇的な何かがあるのかと思ってました。だって、あのキャッチコピーですもんね(「生きているときは、開けてはいけないドアでした」)。
ところが、あっさり生前に父親が部屋に入っちゃうし、母親も別段何か発見するわけでもなく、女の子が「部屋を見せてほしくて」と言った時はいよいよかと思えば、すんなり帰っちゃうし、一体何だったんだろう、って。
でも、僕はあれはあれで良かったというか、だからこそ、あの女の子が父親に見せた「息子の部屋」の写真に「意味」があると、後から思い直しました。
あの部屋に「隠された秘密」は、「息子が<いた>」という事実なんだと。
母親は、女の子が、息子の死によって抉られた自分の心の穴を埋めてくれる何かを持っているのではないかと、期待します。父親も、反対している素振りを見せながらも、少し期待しています。ところが、彼女は、写真以外の新旧情報を別段与えてくれることもなく、それどころか、新しいボーイフレンドと思しき男の子と一緒に現れるのです。
それでも、何かにすがるように、父親は家族と共に彼らをフランス国境の町まで送り、できる限り長い時間を過ごそうとします。やがて別れの時が来て、バスに乗った彼らを「背中」で見送り、家族は微妙な「距離」を保ちながら海の方へと進みます。息子の命を奪ったことになった海に向かって…
あの「指定席」にいた息子はもう二度と戻らない、もう一度同じ形で家族を「再開」するのは無理なのだけど、とにかく人生は無常にも続いていく。息子を忘れることはなくとも、もう一度、前とは違う形で、「平凡で退屈な」家族を築いていこう、いきたい…僕には三人の距離と背中が、そんなふうに見えました。
まあ、これは僕が今「希望」を持ちたい時だから、そんなふうにあの姿が見えたのでしょうし、皆さんは皆さんで、この「退屈で平凡な」映画の「退屈で平凡な」家族に、様々な思いを馳せることでしょう。それはそれでいいのだと、一回り大きくなった(らしい)モレッティは言ってるのだと思います。
それから、分析医を辞めると告げた時の、たった二人でしたが患者の反応における、父親の複雑な表情も忘れがたいものがありました。
特に大きな事件が起こらない、まあ、息子の事故死は大事件ですが、それでも、極端な感傷に陥らず、淡々と彼らの日常を切り出し、重ねていく手法にこそ、鑑賞後の余韻が生まれるといったところでしょう。
ボンヤリしているようで、後からジワジワくる、いい映画だと僕は思います。
〔★4.5〕
[ワーナー・マイカル・シネマズ茨木/1.20.02]
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