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[コメント] アメリ(2001/仏)

マーケティング映画。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ストーリーを要約するなら、「ちょっとアレな髪型の不思議ちゃんが、失敗インスタント写真コレクターのポルノショップ店員に恋をして、虚弱体質ヒッキー老人の手助けを得てストーキング・ラヴアタック!」

それがなぜかファンタジィになっちゃうってんだから、すごいことになってるよ今の世の中は。というか、このテーマを自分の作風で撮ればファンタジィ映画にできると考えたジャン・ピエール・ジュネがすごいのだ、と言うべきか。

個人的には、小手先のギミックにばかり淫するこの監督の小器用な作家性は、はっきり言ってあまり好きではない。『ロスト・チルドレン』のレビューでも書いたけど、やっぱり「アーティスト気取りで基礎をおろそかにしてる学生画家」風なんだよな。カメラも、美術も、編集も、音楽も何もかもが。ただ、その他愛のないジュネ的作品世界が、このプロットにおそろしくうまくハマってしまったのは事実。

これはおそらく事故ではなく、確信犯的な所業のはず。ミもフタもない言い方をしてしまえば、要するにマーケティングの勝利、ということなんだと思う。キーワードは「恋愛至上主義」「トラウマ」「癒し」「等身大の幸せ」。それにジュネ風「キッチュ」&「不思議」を組み合わせれば、アラふしぎ夢見るファンタジィ映画のできあがり。いわば綿密なマーケティング作業と自らの作家性とを照らし合わせることによって割り出された、今もっとも旬な「虚構」。

もちろん映画はなべて虚構であり、現実に媚びを売る必要などはまったくないのだから、それはそれでよい。全くすばらしいことだ。……アレ?けなすつもりでレビュー書いてたのにいつの間にかベタ褒め文章になってるじゃないか。どういうことだ。じゃあやっぱり、この映画はいい映画なのか。うーむ。でもね、ここで描かれる「キッチュ」も、それが併せ持っている「キュート」も「毒」も、人を不快にさせない程度の、体の良い表象のイメージのなかにしかおさまっていないの。パッケージング、ということだろうな(*1)。もちろん、それを踏まえた上で言うなら、素晴らしいファンタジィとしてこの映画は完成されている、とは思う。

ただひとつ言えるのは、最大公約数的なニーズに見合った虚構を提供する、大衆芸術としての映画を作るのは、もともとは職人の仕事だったということ。撮影所システムが機能していた時代のハリウッドがまさにそうだったように。それが今や、もっともアクの強い作家性をもっている(と一般に思われている)ジュネという映画「作家」が、まさしくこのような「職人」的な映画を作ってしまうということ、ここに何かチグハグな現実があるはずなのだ。

では、ジュネは職人なのか。それは違うだろう。正確に言うなら、最大公約数的なニーズに応えるべく、自らの作家性すらもマーケティングの素材のひとつに貶めておきながら、あたかもその「キュート&グロテスク&キッチュ」な作風こそが、自分のアーティスティックな「売り」なのだと言わんばかりの二枚舌な姿勢、ということか。要するにこの監督は、上述したような「チグハグさ」、つまり作家性と職人性の奇妙な共棲状態に、居直っているということだ(*2)。こうした居直りのほうが、小手先の技巧を凝らした作風なんかよりもよほどグロテスクではないか。僕はそう考える。

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(*1) たとえば、登場人物それぞれがもっているちょっとしたエピソードやエキセントリックなこだわり(梱包材のプチプチをつぶすとか)なんかを並べてるところなんて、ミニマリズム(小さな物語)の焼き直しにすぎない。要するに今の世の中は、誰もが「人とはちょっと違う私」という幻想を抱きつつ生きているのだ(もちろん私も含めて)。そしておそらくこの監督はその事実を正確に(あるいはマーケティング的精密さで)把握している。

(*2) 逆に、そうしたチグハグさに直面し、愚直な失敗を繰り返し続けている人間として、たとえばスティーブン・スピルバーグという固有名をあげてもいいかも知れない。

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ところで、スクリーンを縦につらぬく一本道を郵便屋さんがやってきて、門のまえに立つお父さんに「人形ハガキ」を手渡すショット。あれはひょっとして『エル・スール』ですか?

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[2002/02/25]追記:友人の話では、舞台となったパリの街並も「ありえない光景」だそうで、実際のパリは衛生も治安も悪くすごく住みにくい町になりつつあるらしい。つまりこの「アメリ」のパリは、自分たちの街に誇りを持っているパリジャン&パリジェンヌ達にとっても「最大公約数的なファンタジィ」なのだそうだ。けっこう面白い話だね。

(評価:★3)

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